平成24年3月までには適格年金契約を廃止し、これまでに積み立ててきた退職金資産を何らかの制度に移行するなどして処理をしなければならないことはご存知のことと思います。これまでにも巷では適格年金移行をテーマとした各セミナーが開催されたり、解説書も数多く出版されるなどしてきたため、どうにかしなくてはいけないという思いの会社様は多いことと思います。中にはすでに保険会社などの提案をお受けになったり、社会保険労務士によって規程を変更したなどの対策をとられている会社様も多いことでしょう。しかし、実はそのせっかく施した対策に問題が潜んでいるのだとしたらどうでしょう。
この適格年金制度の廃止という事態に対しては、実はそれぞれの対策を施しただけでは根本的な解決にはなっていないのです。私どもでは、退職金制度が抱える問題を解決するためには退職金規程の見直しおよび制度にあった資金の準備という両輪が大事だと考えています。これまで退職金の資金準備を適格年金でされていた会社様であればなおのこと"規程と準備"の両面からしっかりと制度の見直しを図ることが重要なのです。
適格年金制度は予定利率5,5%という今ではかなりの高い利回りを想定して作られた制度でした。具体的に言うと、仮に毎月1万円を40年間積み立てると1万円×480月で480万円となりますが、5,5%という利回りで回れば40年後には1700万弱の退職金が支払えるということです。
ところが、バブル崩壊後実際の利回りはご存知のようにどんどん低くなり、平成14年には1%となり、現在までこの水準で推移しています。この利回りの差が生じて出来てしまったのが現在の積立不足です。本来であれば制度上、5年に1回の再計算をしてその不足分を埋めてこなければいけなかったのですが、あいまいに見過ごされてきてしまった企業が多いのです。
この積立不足はもちろんそのまま放っておくことは出来ません。退職金規程および退職年金規程(適格年金の規程)で約束された金額に足らない分は企業が補填しなくてはなりません。そこでこの積立不足をどうするかということが、これから退職金制度の見直しをされる企業にとっては喫緊の課題といえます。
利益が上がったときに早めに貯金するつもりで保険料を増やしたら、退職金支給額が上がってしまい、自社の退職金規程を上回ってしまったなどということが実際にあります。経営者とすれば、後々従業員に支払う額を早めに貯金するつもりで毎月支払う保険料を増やしたいという場合もあるかと思います。
ただ適格年金は「掛け金が増える=退職金支給額が増える」という仕組みを持っています。その結果、退職年金規程(適格年金の規程)ではなく退職金規程の支給額を上回ってしまう場合があります。こうなると高いほうの金額が支払われてしまうので、社内で決めてあった規定額以上に支払うことになってしまうのです。適格年金で積み立てた額と自社の退職金規程の定めた額との関係はどういう位置づけになっているのか、早めにご確認されることをお勧めします。
運用利回りの悪化や積立不足への企業の補填責任といったことを企業が知ると、適格年金解約に関する相談が増加します。結論から言えば、すぐに適格年金をやめてしまうことはお勧め出来ません。まず適格年金を解約するとどうなるのかを考えてみることが必要です。
1.解約返戻金の受取人
通常の保険商品であれば解約すると会社にお金が戻ってきますが、適格年金の場合は会社ではなく従業員に解約返戻金として直接お金が戻ってきます。これはそもそも適格年金契約を締結するときの要件のひとつでしたので、会社に戻ってくるようには出来ません。会社側からすれば、従業員に直接戻ってきた解約返戻金はあくまでも「退職金の前払い」という意味がありますから、その考え通り、この解約返戻金は退職金の一部とする為には、従業員の同意を得ておくことや退職金規程の変更をすることなどの手続きが必要となります。
2.税務上の優遇措置
その一方、従業員にとっては会社がいくら退職金の前払いのつもりでいてもそうはいかないのです。退職金としてもらったお金は「退職所得」として税制上優遇措置がありますが、この場合はその従業員は退職していないので「一時所得」としてみなされて50万円を超える場合はその超えた額の2分の1が総合課税として課税対象となってしまいます。つまり税金が増えるということです。
それ以外にも、たとえば、
(1) 翌年の住民税の金額が増える
(2) 所得を基準として許可されていた子供の保育施設への入所が拒否される。
(3) 今回の解約返戻金、例えば70万円とするとその70万円は本人が定年退職するときの70万円と同じ価値があるのか
などの問題が発生してくる可能性があります。もちろんデメリットだけではなく、まとまったお金が入ってくる為、住宅ローンの繰上げ返済に利用するなどメリットもあるのですが、以上のことからも単純に適格年金を廃止するだけでは後々禍根を残すことになりかねません。
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